ご遺体への尊厳

今回、訪問診療の先生が襲われた背景に、遺された息子さんからの<死後1日たった患者さんへの心肺蘇生処置>の希望に応えなかった、というものもあることがわかりました。

 

これは、<無駄とわかっていても、こんなに恨まれて命を落とすくらいなら、やってあげればよかったのに>と思う方もおられるでしょう。

 

いや、これ、医師としては、<無駄>という前に、<ご遺体への尊厳>という意味で、やはり、応じづらいと、思います。

 

心肺蘇生、俗にいう心臓マッサージですが、肺や心臓を守る胸骨を押さえつけて心臓を動かすわけですから、本気でやれば、胸骨が折れる可能性、すごく高いです。胸骨を折ってでも、心臓を動かす、これが、心臓マッサージの基本です。90代の女性にこんなことしたら、胸骨ボキボキ、肺も傷つくでしょうから、おそらく、口からも、ドバーって、血がでてきます。ボキボキ、バキバキ音がするなかで、口から、ドバーって血がでる。まさに、スプラッターな現場になります。

 

明らかに効果が期待できないなかで、ただ、遺された者の要求だけで、そんなこと、できないでしょう。ご遺体の尊厳を守るということは、ものすごく、医療現場において、神聖なことであり、大事なことです。

 

私なら、<トラブルになると自分の身が危ないと思って応じたかな。><遺されたつらさを、少しでも慰めてあげれるならと、応じたかな。>と、考え続けているのですが、やはり、説得して応じなかった、と、思います。

 

本当に、どうすればよかったのかしら。答えがでません。